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2008-12-24

22)加藤くんの本 2008.12.24

 加藤達夫。私が前いた会社の元社員である。礼儀正しく、しっかりと仕事をこなす優秀な社員だった。ある日突然、「躁になったからしばらく休みたい」という申し出があった。落ち着いたその対応から、ああ前にも経験があるんだな、という印象を受けたのを覚えている。半年ほど休業した後、職場復帰の希望が出された。主治医にも意見を聞き、短時間の慣らし出勤から始めて完全復帰への体制を整えていった。しかし結果的には数ヵ月後、彼は職場を去っていった。「これから先、自分には会社生活を続けるのが難しいような気がする。文筆で生きていく道を選びたい」というようなことだった。3年くらい前のことだろうか。
 その彼が最近、本を出したという。早速読んでみた。『この世のすべては私のもの-----躁病者、初めての衝撃手記!!』(洋泉社)というもの。本文中に『神、そう私は神だった。この世のすべては私のものだった』という記述がある。躁病期の高揚した精神状態を表しているのだろう。
 それにしても人はこういう病気を隠すもの。よくも自ら公にしたものだと思う。文章自体は非常に読み易い。一つ一つ、短い文章で構成され、スピード感があり、歯切れが良い。

 躁鬱病は普通3つに分けられる。鬱状態のみを繰り返す鬱病が全体の3分の2、躁状態と鬱状態の両方が出現する躁鬱病が3分の1ぐらいで、躁状態のみを繰り返す躁病は極めて少ない、と学んだ。加藤君の場合は、大学卒業を間近に控えた最初の発病時に、ひどい鬱を経験しているものの、その後は躁の記録ばかりで鬱の記録が無い。一般的にはかなり少ない症例なのかもしれない。また同じ躁鬱病という病名でも、その発現形態は十人十色であろうから、彼の例から躁鬱病の全てを推し量ることは出来ないだろう。
 それにしても凄い体験である。海外を舞台にした事件の数々。手当たり次第の買い物、借金、喧嘩トラブル大乱闘、闇の社会への出入り、はては留置場、拘置所への収容や大学病院への強制収容。怖いものなしの行動。その間、妄想の数々や絶頂感。まさにこの世のすべては私のもの。読み終わってみて、よくも無事に日本へ帰れたものだと胸をなでおろした。
 本当にあの礼儀正しくて、おとなしい加藤君の話?その疑問が完全に解けた訳ではない。しかし一方-----カウンセリングを学ぶ中で、躁鬱病についても色々と学んできたが、実際の躁病者の手記を読んで、教科書で得た知識というか自らの観念にかなりの修正が必要だなとも思っている。

 蛇足ながら。この本は奇天烈ノンフィクション賞第1回受賞作品であるという。サイトで常時このような作品を募集し、審査して、ものになりそうな作品は講談社はじめ出版社に持ち込んで出版するのだという。応募は無料、出版化された時点で、いくらかの印税を貰うとのこと。現代らしい新しいビジネスなのかと余計なところで感心した。無名の新人にはありがたいシステムなのかもしれない。

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