787) 桜島の思い出
桜島の火山活動が活発になっている。噴火警戒レベルが引き上げられ、周辺の住民は避難所生活を強いられている。一部海域では海面に泡が浮き出ており、火山ガスが海面に吹き出す「たぎり」現象ではないかと観測されている。これからの火山活動がどのような経過を辿るのか、予断を許さない状況のようだ。
桜島の火山活動については、私には綺麗な思い出が残っている。
あれは50年以上というより、もう60年近くも前のことである。その頃私は鹿児島で高校生活を送っていた。学校は錦江湾に面した海岸沿いにあった。校庭を囲む石垣の先には松林と白い砂浜が広がっていた。絵に描いたような白砂青松、その先、静かな錦江湾の対面には桜島が雄大な姿で浮かぶように横たわっていた。
私は学校の敷地内にある学生寮で生活していた。夜、勉強に飽きるとよく砂浜に寝転がって夜空を眺めていた。そんな時、桜島の噴火を目にすることがあったのだ。
真っ暗闇の空の一部、桜島の頂上と思える辺りがほんのりと明るくなる。それが噴火の前兆だ。しばらくすると明かりの中から真っ赤な噴石がポンポン吹き出し始める。まるで花火のようだ。しかもこの花火には絶え間がない。噴出がだんだん激しくなると、次には山肌をトロトロと流れる真っ赤な溶岩の流れが、幾筋も幾筋も現れる。流れはゆっくりと山裾に向かって降りていく。
上に吹き上げる噴石と下に流れる溶岩との競演は見ていて飽きることがなかった。私の記憶の中に残っている桜島の噴火は、何処の花火大会にも負けることのない美しい光の演舞である。
当時、鹿児島には今みたいに火山灰が降っていなかった。噴火をあまり怖いものと感じていなかった。桜島の噴火の態様が今とは少しく違っていたのかもしれない。ともかくも、今回の火山活動が1日も早く、何事もなく沈静化することを祈りたい。(2015.08.20)