2016-03-11
882) ある乗客
昨日、帰宅中のバスの中で見掛けたある乗客の話。
常時多くの乗客が乗降するバス停でのことだった。
最後の乗客が降りるのに手間取っていた。
50歳過ぎと見受けられるご婦人だった。
小ざっぱりした服装に、しゃれた帽子を被っていた。
私はその時、前部座席に座っていた。
だから運転手と乗客のやり取りがよく聞こえた。
「バスカードの中にお金が入っていないんですよ」
「だったら料金箱に現金をいれてください」
「現金もはいってないんですよ」
「お金がなかったらバスには乗れないんですよ」
「はい」
「あなたはこの前も同じことを言っていましたよね」
「はい」
「その時、名前と住所をひかえさせてもらいましたよね」
「はい。・・・私はどうしたらいいでしょうか」
「仕方がない。今日はこのまま降りてください」
「はい」
「もう一度見つけたらこのままではすみませんよ」
「はい」
ご婦人は悪びれもせず、素直にそんなやりとりをしていた。
はじめは、なんと厚かましい中年おばんなんだろうと思った。
次に、もしかしたら認知症の患者かもしれないと思った。
放浪を防ぐために家族が財布もカードも空っぽにしているのかも・・・
何だか身につまされる気分でバスを降りた。(2016.03.11)