1260)「物語 ウクライナの歴史」
読み始めてみると、出所文典の原文を引用しながらの文章は少し読みづらくはあるものの、うそやはったりのない誠実さに引き込まれる。と、偉そうなことを書いたが、読み終わっても、その歴史の複雑さに、老人の劣化した脳味噌の中は混乱したまま整理がついていない。まったく消化不良のままこの本を捨て置くのは勿体ない、そう思った。日頃、一度読んだ本はあまり振り返らず、すぐに忘れてしまう私だが、この本に関しては、記憶の残っているうちに再読することにした。
それほどに理解不十分のまま、1回目を読み終えての感想を書いてみる。2回目を読み終わった時には違う受け止め方をしているかもしれない。
ウクライナ人は長年自分の国を持たない民族だった。紀元前、現在のウクライナの地に住んだ人種は、キンメリア人、スキタイ人など騎馬、遊牧の民であった。その後複雑な民族の盛衰を経て、この地を支配したのはキエフ・ルーシ公国であり、これが現在のロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人の先祖となる。そのキエフ・ルーシ公国も、以後モンゴルに征服されたり、リトアニアやポーランドの領土になったり、苦難の道を歩く。
その後、キエフ・ルーシ公国の中のモスクワ公国が巨大化し、ロシア帝国となりロシアは後にソ連邦となった。この間ウクライナはロシアやオーストリア帝国に支配されるなど、複雑な過程を経、第二次世界大戦の戦後処理としてソ連邦の中に組み入れられた。
この歴史を見ると、ロシアのプーチン大統領が主張する、ウクライナはもともとロシアの領土だったという主張は少し違うようである。
第二次世界大戦終結後、東西冷戦時代を経て、ソ連邦が解体し、その流れの中でウクライナが独立する。ウクライナの独立運動は350年の歴史をもち(この本が描かれてからさらに20年経過)、ウクライナの独立宣言は20世紀になって6回目のものであったという。ソ連邦の崩壊によって、ウクライナの人々が長年抱え、実現できなかった独立の夢がかなったのである。
ウクライナの人々がロシアに痛めつけられても、痛めつけられても戦う意欲を失わないのは、こうした長い歴史の産物なのかもしれない。
(2023/05/15)