小倉昭和館。かっては知る人ぞ知る、熱烈な映画ファンにはよく知られていた特徴ある映画館、今では全国区で広く知られるようになった映画館である。当社が入居するこのビルとは直線距離で100メートルもない。大通りの筋向いに位置し、会社の窓からは、他のビルが邪魔して直接には見えない。

　北九州市民の台所、旦過市場の中にある。

　その旦過市場が昨年の4月と8月、2度にわたって火災に遭い、2度目の火災で80年以上の歴史をもつ昭和館も焼け落ちた。テレビや新聞で何回も取り上げられたために、全国的に有名になった。

　熱心な映画ファンや馴染みの役者さんだけでなく、広く市民の応援を受けて、焼け跡に新しい映画館が建った。つい数日前に再オープンしたばかりである。報道によると、今はやりのクラウドファンディングを使った寄付も集まったようだ。

　昨日夕刻、書店をブラブラしたら、平積みの本の山が目に付いた。

　書名はずばり『映画館を再生します。小倉昭和館、火災から復活までの477日』という昭和館館主樋口智巳さんのドキュメント。早速買い求めた。知っている地名や人名、役者さんの名前がいたるところにちらばっていて、昭和館や映画界を身近に感じることが出来た。また映画館の娘として生まれ育ち、そして3代目館主となった著者の映画に向けた愛情や交友関係、映画館再生の困難さが率直に綴られていて面白かった。

　思い返せば昔、受験競争から逃避した高校時代のこと、私は、トイレの匂いの漂う、場末の3本立て映画館によく通ったものだった。

　そのうちに面白そうな映画がかかったら、昭和館に行ってみようか、という気になった。読んだばかりの本の影響かもしれない。

　　　　　　　　　　　　　（2023/12/14）