2010-04-09
155)新入社員 2010.4.9
カバーをかけながら、店員さんがチラチラと私の顔を見るのです。胸には『研修生』と書かれた名札を着けていました。今はまさに4月、入社したての新入社員でしょう。
「どうかしましたか」と私。彼女、ちょっと顔を赤らめて、「いえ、私も読みました。とても良かったです。文庫本でも出ているんですね」。 と、たったそれだけの会話でしたが、ほのぼのとした気分で店を出ました。彼女は何年か前に、既に刊行されている単行本で読んだのでしょう。井上ひさしさんのファンだからでしょうか、それとも南イタリアの都市ボローニャに関心があったからでしょうか。
しかし-----私が新鮮に感じた、あのような初々しい会話を、彼女はいつまで続けることが出来るのでしょうか。先輩達から「個人的な好みを話してはいけないのよ」とか、「余計な会話は駄目なのよ」とか指導を受ける姿を想像してしまいます。じきに「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」といった、マニュアル言葉しか発しないようになるのではないかと思うのです。
役割であるとか、場所であるとか、言葉というのは難しいものだ-----と思います。