3人の息子達が早くに家を出てから、犬や猫との同居生活が20年近く続いた。
　　愛犬クリが逝ったのは3年前だった。今年にはいって1月に愛猫トラが、9月に同じく愛猫シロが旅立った。彼らが全員あの世に旅立った後、この世には老夫婦2人だけが残った。

　　クリもトラもシロも、私たちの心を何かと癒してくれた。クリとの毎朝夕の散歩は夫婦の健康管理にどれほど寄与してくれただろう。今日一日の彼らの行動が、夫婦の会話の中心に座っていた。妻は彼らを怒ることによって、子育ての再現をはかっていたようでもある。

　　いい事ばかりではない。不便なこともあった。家を留守にしづらかったというのがその一つ。例えば海外旅行である。ペットホテルに預ければ良さそうなものだが、長くなると不憫になる。彼らが高齢になってからはその不憫さはいよいよ増してくる。

　　定年退職後、夫婦であちこち海外旅行をしようと話していた。しかし彼らのことを思うとそれはかなり困難な事業であった。
　　そして彼らが自由を与えてくれた今、夫は70歳、妻は69歳、体力の衰えを日々実感する年齢を迎えてしまった。かなりな体力を要する海外ツアーに参加できる期間はもうあまり残されていない。参加するならまだいくらか体力が残っている今のうちだろう。

　　という訳で、ふらりと旅行社に行ってみた。思い立ったが吉日、ずらりと並んだパンフレットの中から、費用や期間や地域などの面で適当なツアーを選んで申し込んできた。2月末の中欧めぐりツアーである。（2012.11.08）