
2025-04-14
1985)老人ホーム
妻はベッドに横になっていた。クッションを背中に挟み、胸に抱いて、寝返りもせず、手足を動かすこともなく寝ていた。目を閉じたり開いたりしながら、時々意味のない声を発しながら。
私の姿を見ても何の反応もない。見えているのかどうかもはっきりしない。呼びかけても反応がない。聞こえているのか分からない。手足の筋肉も固まっているように動かさない。
妻のもの忘れのひどさが心配になり、病院に連れて行ったのは丁度10年前のことになる。アルツハイマー型認知症という診断を受けた。その後徘徊が始まり、次々と奇妙な行動が表れた。もの忘れ外来で治療を受け、ついには入院に至った。その後精神科病院に転院して治療を受けたあと、グループホームに入所したのが6年前のことだった。グループホームで誤嚥性肺炎をおこして高熱を発し、救急病院に運ばれ、落ち着いたところで療養型の病院に転院し、そして今の特別養護老人ホームに入所したのが、昨年11月のことである。
グループホームや老人ホームといった施設のお世話になって6年、この間に妻の認知能力は確実に劣化した。話す相手もなく、ひとりベッドで寝ている生活がそれを促進したのかもしれない。
自宅で介護していたら認知症の進行をいくらか遅く出来たかもしれない、と自分を責める気持ちが湧く。しかし現実にそれが可能だっただろうかとも思う。時々新聞に載る無理心中のような悲惨な事件が他人事ではないような気がするのである。
(2025/04/14)