2009-07-07
74)帚木蓬生 2009.7.7
彼の作品に最初に出会ったのは、もう3年位前になるだろうか。本屋で平積みにされていた「閉鎖病棟」という文庫本が偶然目にとまった。帯を読んで精神科の病院を舞台にした小説らしいとは分かった。名前も知らない作家だった。何気なく買った。
読んでみて、感動した。精神科の患者さんの日常が気負いもなく、むしろユーモラスに淡々と描かれている。しかしその中に患者さん一人ひとりの個性を重んじる心、限りない愛情が感じられてならなかった。以来、帚木蓬生にはまってしまった。
この人は経歴がまた変わっている。東京大学文学部を卒業後、放送局のTBSに就職、2年間で退職。再度受験勉強に後戻り。九州大学医学部に入りなおして精神科医になったという経歴の持ち主。真面目に医者をしながら、朝の3時とか4時に起きて小説を書くという。年に一作くらいのペースで書くとも聞いた。帚木蓬生はペンネーム。再度の受験勉強中、模擬試験を受けるのに本名では抵抗があったとかで、源氏物語からとった名前だという。
いくつかの作品を紹介しておきたい。いずれも長編、文庫本になっている。ご一読を。
〇三たびの海峡(太平洋戦争、北部九州の炭鉱、炭鉱の強制労働に駆り出された韓国人、過酷な労働と非人間的な労務管理、そういう時代があったことを心に留めたい。三たびとは、主人公が一度目は強制的に連行され、二度目は炭鉱を逃亡し隠れて渡り、三度目は戦後に成功者として海峡を渡るという三度)
〇逃亡(作者の父親がモデルだという。8月15日の終戦。それで戦争が終わったわけではなかった。戦犯と言えば、A級戦犯のことしか知らなかった私は、B級・C級戦犯として多くの人が処刑され、それを逃れるために戦後も逃亡を続けていた人達がいたということが大きな衝撃だった)
〇臓器農場(生まれつきの障害をもった乳幼児に対する臓器移植で著名な北九州地区の某病院。その多数の臓器はどこから来るのか。スリルとサスペンスの物語)
〇安楽病棟(痴呆老人、老人介護問題を取り上げた作品)
〇空山(ゴミ処理場建設を題材とした作品)
〇国銅(奈良の大仏建立に関わった人達を描いた作品)
〇空夜、千日紅の恋人(いずれも恋愛がテーマ、この作者にしては異色の作品)
他に海外を舞台にした作品も多い。
突然、藪から棒に帚木蓬生を取りあげたのは、自分が最近また読み始めたから。前に読み残していた初期の作品を読んでいる。白い夏の墓標、空の色紙、カシスの舞い等。