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てげてげブログ
2009-09-08

88)帚木蓬生、再び 2009.9.8

  「アフリカの蹄」と「アフリカの瞳」。いずれも北九州在住の作家帚木蓬生作、南アフリカ共和国を舞台にした小説(作中のどこにも国名は明記されていなものの-----)。
  アフリカの蹄  時代はアパルトヘイト(人種隔離)政策の撤廃前。テーマは天然痘、そしてその背後にある人種隔離政策をめぐる黒人の激しい抵抗運動。
  アフリカの瞳  蹄の約10年後に執筆された姉妹編。時代はアパルトヘイト政策撤廃後すなはち黒人が白人から政権を奪取した後に飛ぶ。テーマはエイズ。エイズは人為的なミスや無策もあってこの国で容赦なく感染拡大し、世界一のエイズ禍大国となった。そしてその背後にあるのは黒人の極端な貧しさ。
  いずれの編でも黒人社会の貧しい暮らしぶりが繰り返し、淡々と叙述される。一方でとてつもない豊かさとそれを享受する少数の白人、一方で圧倒的多数を占める黒人の極端な貧しさ、それらが混在するという南ア連邦の特殊な社会的状況が根本に横たわっている。
  主人公は、南アフリカに先端の心臓移植手術の研修に行き、ついには現地の女性と結婚し、現地に永住する決心をする日本人。  (何故、南アフリカで最先端の心臓移植手術が?-----それは黒人の臓器を自由に入手できるから-----というのには驚いた)

  「蹄」では、白人極右組織が、黒人社会を滅亡させ、白人の楽園を築こうとして、既に地球上から絶滅したはずの天然痘を巧妙に黒人居住地区に流行させるという物語。主人公はその企みを打ち破るために、まわりの黒人と協力して大活躍する。
  「瞳」ではエイズの流行に有効な手を打てないばかりか、効き目のない薬を、国内産の治療薬としてでっちあげ、国際社会の批判をかわし、国民の目を欺こうとする無責任な政府。はたまたエイズ治療薬の危険な人体実験の場として、多数の貧しい黒人達を利用する外国の巨大な製薬会社。それらを相手取って主人公がまたまた大活躍。

  人道主義者の主人公が自らの利害や危険を省みず、貧しい黒人達のために活躍するという冒険サスペンスストーリーは私の好みではない。帚木蓬生の他の作品に比べてあまり面白いとは思わなかった。
  それよりも人種差別の実態や、貧困の実態、アフリカ社会が抱える問題などの記述がちりばめられていて、数年前に南アフリカを旅した時の記憶を昨日のことのように思い出させてくれた。南ア連邦を知るための社会書として読める本だと思った。詳しい、細かい描写から察して、著者は一時的にでも現地に住んだことがあるのではないかと推測してみたのだが-----?
  話は飛んでワールドカップ南ア大会に応援に行くサポーターの人達にも一読を勧めたい本。南アフリカの社会を学ぶには小難しい本を読むよりも役に立つかもしれない。

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