943) 老いの整理学
脇机に積んでいた本の中から「老いの整理学」(生理学にあらず)という本が出てきた。著者は著名な英文学者である外山滋比古氏。初版の発行が2014年、著者91歳の時の本である。
読んでみるとなかなかに面白い。この先生は相当の偏屈者なのだろうというのが最初の印象だった。しかしまてよと思った。思わずにやりとさせられる文章の数々は、91年にも及ぶ人生経験が生み出した、貫録の産物なのだろうと思い直した。
世の中はストレスに満ちている。そして「ストレスが溜まると諸悪、諸病の原因になる」「現代人が心身の健康を保持するには、ストレス処理についての知恵が求められる」と続く。
そのためには「感情を発散させる」ことが有効であり、感情の発散は周りの人には迷惑かもしれないが我慢して命を縮めるよりもましであるとこの先生は説く。
「感情を発散させる」という章の中の文章を一部抜粋してみる。
「怒ってよし」・・・「老人は、なにかにつけて、ハラを立てる。怒る、叱る、不平を言う」「心身ともに活力の低下する高齢になると、コントロールがきかなくて、ハラのたつことがあれば正直に怒る。それは自然が命じることで、へたに抑圧、内攻させると、心身の障害を招くことになりやすい」
「泣くもよし」・・・「涙を流し、泣くことによって心の中のワダカマリを解消することができる」「命を大切にしたかったら泣いて涙を流すことである。ひとがどう思おうと、かまうことはない。わが命のほうが大切である」
「まわりは敵」と思え・・・「まわりがみな味方だと思っていると、人間は力を失って弱くなる。反対にまわりに敵がうようよしていると思えば、緊張、努力して、気をゆるめず自らを励ます。活力が出る。元気が湧いてくる」
「威張ってよし」・・・「威張るのは、威張られる側にとっては不愉快なことであっても、威張る側にしてみれば、生き甲斐のひとつである。それを封ずれば、心が痛むのである。体が病むことにもなるのである」
「命を延ばす方法」という最終章の最後、締めの文章がまた面白い。
「いやなことは『知らぬがホトケ』。運悪く知ってしまったら『忘れるがカチ』。これは決して無責任ではない。」 (2016.06.24)