2012-02-15
372) 労働審判制度
70歳を目前に控えた3月一杯で、制度発足以来6年間つとめてきた労働審判員の役目が終わる。数えてみたら43件の事件に関わっていた。私が関わった殆ど全ての事件で調停が成立したのは幸いだった。
様々な事件に関わり、労使紛争を早期に解決するためのお手伝いが出来たという思いは強い。一方で、世の中にはまだこんなことも起こっているのかと驚くような事件も多々あり、世間を知るための自らの勉強にもなった。ありがたい経験だったと思う。
先日、朝日新聞に『働く人の法律相談』『労働審判なら、短期間で解決率も高い』という記事が載っていた(君和田伸仁弁護士:執筆)。分かり易く纏まっていたので引用させてもらい、労働審判制度のPRをしておきたい。6年間のご恩返しには足りないかもしれないが。
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前回、労働者と事業主の間の労働紛争を個別に解決するために、無料で利用できる制度について説明しました。いずれも強制力はなく、労働者側が十分に納得できる結果にはなりにくいのが難点でした。
それでは困ると言う場合、残る方法は裁判しかないのでしょうか。今回は、裁判よりも短期間で、それなりの納得できる水準での解決が期待できる労働審判制度について説明します。
労働審判は、地方裁判所で行われる労使紛争の解決システムです。審理は労働審判官(裁判官)と、2人の労働審判員(労使の専門家)の計3人で構成される労働審判委員会によって行われます。
3回以内の期日で争点整理と証拠調べをし、調停を試みます。調停が成立しなかった場合は、労働審判委員会が審判を下します。調停も審判も当事者間の権利関係を踏まえて行われますので、それなりの水準での解決が期待できます。
審判に納得できない当事者は、異議を申し立てることができます。その場合、事件は自動的に通常の裁判に移行します。このため、裁判をするくらいなら早く決着させようという動機が働きます。約7割が調停で解決するので、労働審判での解決率は極めて高くなっています。
また結論が出るまでのスピードも注目されます。7割以上の事件が申し立てから3か月以内に終結しています。常に3回の期日を開かなければならない訳ではなく、1回目で調停が成立することも珍しくありません。一審判決が出るまで1~2年かかる裁判に比べ、格段に早いと言えます。
最近では、労働審判の申し立ては年間で3千件を超えます。解雇、残業代請求、退職金請求などで多く活用されていますが、あらゆる労使紛争が申し立ての対象になります。
ただし、労働審判は個々の労働者と事業主の間の紛争解決システムであることから、パワハラ、セクハラなどでは、上司や同僚などの加害者ではなく、会社を相手として、会社の責任を追及する申し立てをすることになります。(2012.02.15)